jazz

「ライオンハート」のあらすじは?
評価は高い?
印象に残った部分は?

恩田陸著の歴史ミステリーラブロマンス「ライオンハート」。どのジャンルに分けて良いのかわからないくらい、かなり不思議な話です。

人間が持っている感覚を言語化してくれている小説で「なるほど」と思うことがとても多かったです。そして、鳥肌が立つほどゾクッとする場面もありました。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。年間100公演ほど舞台を観に行ったことのある劇場フリーク。小説は映画化されているものを読むことが多く、映画との違いを楽しんでいます。

Amazon Prime 30日間無料トライアル

kazu

この記事は恩田陸さんの「ライオンハート」の感想、批評サイトの評価を紹介します。

※3分ほどで読み終わる記事です。この記事は「ライオンハート」に興味がある方、読み終わった方向けの記事です。小説を読み終わったあとは誰かと一緒に感想を言い合いたくなってしまいます。そんな気持ちになっている方に向けた記事です。(基本的にポジティブなことしか書きません。)

時は内側にある

小説のキーフレーズ

魂は全てを凌駕する
時は内側にある

小説を読み進めると「時は内側にある」というフレーズの説明があり、理解することができると思います。ですが、すごく感覚的な理解なので、次の瞬間「ただわかった気になっていただけだ」と気づくことがありました。

kazu

僕自身、今書いていて理解してもらえないような気がしていますが、それだけ不思議な小説です。

この小説では白昼夢や夢がよく登場します。このキーフレーズは夢に似ていると思います。夢は起きた瞬間は覚えていても、ちょっと時間がたつと記憶からスッポリ抜けてしまいます。

「時は内側にある」。わかったような気になったと思ったらわからなくなってしまう…。

わかったようなわからないような…。

「ライオンハート」の構成とあらすじ

「ライオンハート」は5本の短編とそれをつなぐひとつのストーリーという構成です。

老大学教授エドワードが忽然と姿を消してしまいます。この老教授の失踪事件が5つの短編をつなぎます。

5つの短編の表紙には、その話に関連する絵画が登場します。

先ほど紹介したキーフレーズ「魂は全てを凌駕する。時は内側にある」。そして、ユニコーンと顔に布をかけた女性の胸に剣が突き刺さっている紋章がところどころで登場します。

この謎の文章と、紋章の意味が解明されていきます。

生まれ変わる2人

主人公のエドワードとエリザベスは生まれ変わりを繰り返しています。生まれ変わるたびふたりは出会い、離れていきます。ふたりは同じように成長しているわけではないので、リチャードの方が年上の場合もあればエリザベスの方が年上のこともあります。ふたりの組み合わせは老人と若者のときもあれば、大人と子供ということもあります。そして、ふたりが出会わず終わることもあります。

混乱するのが、5本の短編の時系列がバラバラな点です。

この時系列の順序が読んでいて一番混乱する部分であり、この小説が特別な理由です。リチャードとエリザベスの生まれ変わりは1600年ごろから始まります。現代に近づくほど記憶が蓄積されているかというと、そんなこともありません。生まれ変わった後よりも、生まれ変わる前の方に重要な記憶がある場合もあります。

この小説を読んでいて「時間って4次元なんだ…」と不思議な感想を持ちました。恩田さんの時間の捉え方から「時間が数式で表現できる…」とふと思いました。

評価は高い?低い?

恩田陸著「ライオンハート」の評価

ハイブリッド型総合書店honto

評価はちょっと辛めな気がします。恩田陸さんにとって唯一のラブストーリーとも言われています。そして内容が少しわかりづらいこともあり、こういった評価なのかな、と思います。

kazu

僕は☆5つです!

ケイト・ブッシュのアルバムから着想

この「ライオンハート」は、イギリス出身のケイト・ブッシュが20歳のときに発表した「ライオンハート」というアルバムから着想を得ています。「ライオンハート」(原題:Oh England My Lionheart)の実際の曲はこちら。

この特徴的な声…。なんか聞いたことがある…。「あっ!!!!!」

kazu

この曲を知っている人も多いんではないでしょうか?

バラエティ番組の「恋のから騒ぎ」で使われていました。この特徴的な声。恩田さんの心に残る理由がわかります。この曲はケイト・ブッシュのデビュー曲で「嵐が丘」をテーマにしています。

ケイト・ブッシュは自身で作詞作曲し、その曲はとても詩的です。イギリスでは「ロック史上、誰よりも大きな影響を与えてきた女性アーティスト」と評価されています。イギリスで活動することにこだわり、アメリカデビューを蹴った話が逸話として残っています。

小説で紹介された「ライオンハート」の歌詞

Oh, England, my Lionheart(おお、イングランド。わたしのライオンハート。)
Peter Pan steals the kids in Kensington Park(ピーターパンが子どもたちをケンジントンパークから連れ去る)
You read me Shakespeare on the rolling Thames(流れるテムズ川でシェイクスピアを読んでくれたあなた)
That old river poet that never, ever ends(あの古い川の流れは決して止まらない)

意訳しています。

「ライオンハート」は、イングランド王リチャード1世(1157年~1199年)のことで、勇猛さから獅子心王(Richard the Lionheart)と呼ばれていました。この歌は兵士たちを讃えるような内容と言われています。

感覚の言語化

小説の中にこんな部分があります。

「匂い」の表現・・・76ページ

「そして、匂いは記憶を刺激するのです」
青年はそこで小さく溜め息をついた。
「そう思ったことはありませんか? 何か懐かしい匂いを嗅いだ時に、過去の風景が目の前に広がったことは?」

僕自身、匂いについて同じように感じることは多く、丁寧な表現です。

「暑さ」の表現・・・129ページ

やれやれ、覚悟はしていたもののなんとう暑さか。身体は人一倍大丈夫だと思っていたが、この暑さでは想像以上に消耗が激しい。三日経つが、今ちょうど身体がここに慣れようと試行錯誤をしているところなのだろう。老いた身体が必死に働いて、この環境に合わせようと混乱しているのが分かる。こういう時は動き回らないに限る。じっと首を引っ込めて待つだけだ。今はひたすら、この猛々しい熱帯の気候に自分の身体を委ねよう。少なくともその間は何も考えずに済む。

暑い時期に読むとすごく共感します。そしてコロナウイルスで世界が閉ざされたことにも共通する感覚です。

「記憶」の表現・・・153ページ

「記憶というのは面白いものですよ。これだけは忘れちゃいけない、これだけはやらなくちゃいけないと思って何日もかけて準備していたことが、いざ当日になるとすこんと頭の中から抜けてしまっていることがある。いつもやっていることをいざ言葉にしようとしたり説明しようとしたりすると、ぎっしり詰まっていたはずの言葉がきれいさっぱり抜け落ちて真っ白になってしまったりする。ジェフリー、その日があなたにとってあまりにも重要な日だったからこそ、あなたは忘れてしまったんですよ」

この感覚ってすごく重要で、救いにもなる言葉だな、と感動してしまいました。

手紙や郵便のありがたさにハッとする

郵便やメールに関するこの記述も僕は好きでした。

郵便配達人がやってくるのが楽しみだ。郵便制度ができたのは本当に有り難い。もう二度とあの場所に住む気はないけれど、ロンドンの友人たちと1ペニーで手紙をやりとりできるのは心強い。フランスにも同じように手軽に出せればよいのだが。制度ができて以来、すっかり名誉ある職業になった郵便配達人が、立派な髭をしごきながら丘を越えてやってくるのが見えると、エレンも飛び出していって子供たちからの手紙がないか確かめている。

便利な世の中になり、いろいろなありがたみが当たり前になっているな、と感じるのでした。

最後に僕が一番好きだった章「春」に関してです。

章の始めにはミレーの風景画「春」が載っています。

この作品を読んでいたとき不思議な感覚に陥りました。恩田さんの小説があとに書かれたはずなのに、この小説をもとにミレーの絵が書かれていたような感覚に…。

とっきどき作品を観ているとこういう感覚に陥るときがあります。僕が今までで一番感じたのがバレエ「椿姫」をみたときです。ショパンの曲が使われているのですが「このバレエのためにショパンが作曲したんじゃないか」という感覚になりました。

それくらいミレーの絵と小説がマッチしています。

そしてこの章の一番最後、鳥肌が立ちました。

kazu

今回は恩田陸著「ライオンハート」のご紹介でした。 ぜひぜひチェックしてみてください。
ありがとうございました。