バレエ版「シンデレラ」(アシュトン振付)作品解説と歴史。自ら幸せをつかむ
jazz

アシュトン版「シンデレラ」はどんなストーリー?
なぜ王道と呼ばれる?
見どころは?

「シンデレラ」は夢あふれるストーリーです。

バレエ版「シンデレラ」は、ディズニーの「シンデレラ」を想像して観に行くと面食らってしまうかもしれません。

バレエ版の雰囲気は、少し暗めとなっています。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。舞台、特にバレエを観に行くのが大好きで、年間100公演観に行った記録があります

kazu

今回はフレデリック・アシュトン版「シンデレラ」の作品解説です。

※3分ほどで読み終わります。

王道はフレデリック・アシュトン版

1948年イギリスで発表されたフレデリック・アシュトン版「シンデレラ」。

バレエ版「シンデレラ」の王道と言われています。

ちょうど第2次世界大戦が終わって間もないころ。戦争後の世相を反映しています。

アシュトン版初演:1948年12月23日

イギリス:ロイヤル・オペラ・ハウス(英国ロイヤル・バレエ団の前身であるサドラーズ・ ウェルズ・バレエ団が公演)

振付:フレデリック・アシュトン
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
原作:シャルル・ペロー、グリム兄弟

フレデリック・アシュトンは、イギリス人として初めてバレエの全幕を振付したことで有名です。

逆境を乗り越える女性

シンデレラはどんなツライ状況でも人を恨みません。

だからといって幸せをただ待つようなヒロインでもありません。

プロコフィエフの現代的な音楽と、戦後という状況が新たなシンデレラ像を生み出しました。

バレエ版「シンデレラ」でも耐える部分が多いです。でも明るさと夢見る心を忘れないことで、自ら幸せをつかみとっていきます。

アシュトン特有の繊細なステップです。

アリーナ・コジョカルによるシンデレラ。第2幕の舞踏会のシーンです。英国ロイヤル・バレエ団より。

アシュトン版の特徴

アシュトン版「シンデレラ」は不思議とおとぎ話を見ているという感覚になります。

照明、音楽、演出によって、舞台に入り込みやすい作りになっています。

登場人物

シンデレラ
王子様

義理の姉たち:シンデレラをいじめる
父親:シンデレラを守ってあげられない

仙女:シンデレラを魔法で助ける
春の精、夏の精、秋の精、冬の精:仙女とともにシンデレラを助ける

道化:舞踏会を盛り上げる
王子の友人たち

アシュトン版では継母が登場せず、義理の姉たちのみ登場します。この義理の姉たちを男性ダンサーが演じます。シンデレラをいじめるのですが、男性が演じることで陰湿さよりもコミカルさが前に出るようになっています。

そして父親が登場します。この父親は2度、妻に先立たれています。お父さんはシンデレラを心配しているのですが、極めて気の弱い人物として描かれています。

上演時間:1時間50分

第1幕:45分
第2幕:40分
第3幕:25分

休憩を入れると2時間20分ほどになりますが、バレエとしてはコンパクトな公演時間なのでバレエ鑑賞初心者の人にもオススメです。

あらすじ

あるヨーロッパの王国。

シンデレラが義理の姉たちにこき使われている。気弱な父が助けてくれることはなく、雑用の日々を過ごしている。

王宮では、王子様の結婚相手探しのための舞踏会が開かれる。この舞踏会には未婚の女性全員が招待される。しかし、シンデレラは連れて行ってもらえない。

そんなシンデレラを不憫に思った仙女がシンデレラに魔法をかける。仙女は忠告する「12時に魔法が解けることを忘れないように」。

華やかなドレス、ガラスの靴を身に着け、舞踏会に出発するシンデレラ。

舞踏会で王子様と運命的な出会いをするシンデレラ。しかし、12時の鐘がなると急いで王宮から出ていってしまう。ガラスの靴を残して……。

諦められない王子様がガラスの靴にぴったり合う女性を探す。

魔法が解けているもののシンデレラを見つけることができた王子様。シンデレラを王宮に招き、2人は結婚するのだった。

なぜアシュトン版が王道なのか

フレデリック・アシュトンは、オリジナルの音楽を何曲かカットしています。

第3幕、王子様がガラスの靴を手がかりにシンデレラを探します。プロコフィエフの音楽ではいろいろな国に探しに行く設定になっていますが、アシュトン版ではこの部分がマルっとカットされています。

他のバージョンではこの音楽が使われていることもありますが、ストーリーとあまり関係なく各国の踊りが楽しめるシーンとなっています。クライマックスの前に入ってくると少しダレてしまうことがあります。

アシュトン版はこうした工夫を凝らすことでシンデレラと王子様のストーリーに焦点があたっていて、物語の印象を強く残すバージョンとなっています。

歴史

プロコフィエフ作曲の「シンデレラ」の歴史です。

プロコフィエフ作曲版

1945年:ザハロフ版初演(ボリショイ劇場)
1946年:セルゲイエフ版初演(キーロフ・バレエ団:現マリインスキー・バレエ団)
1986年:ヌレエフ版(パリ・オペラ座バレエ団)
1992年:ジョン・ノイマイヤー版(ハンブルク・バレエ団)
1997年:マシュー・ボーン版(ニュー・アドベンチャーズ)
1999年:ジャン=クリストフ・マイヨー版(モナコ公国モンテカルロ・バレエ団)
2004年:ウラジーミル・マラーホフ版(ベルリン国立バレエ団)
2010年:デヴィッド・ビントレー版(バーミンガム・ロイヤル・バレエ団)

ちなみに、1893年がバレエ版「シンデレラ」(ボリス・フィチンゴフ=シェーリ作曲)の初演です。

エンリコ・チェケッティとレフ・イワノフが振付、マリウス・プティパが総監修をしました。シンデレラを演じたピエリーナ・レニャーニが世界で初めて32回転のフェッテをこの「シンデレラ」で披露したという歴史的な作品です。

ヌレエフ版に関してはこちらをご覧ください。

プロコフィエフの音楽はちょっと暗め?

作曲のプロコフィエフはバレエ版「ロミオとジュリエット」でも有名です。

「ロミオとジュリエット」で大成功を収めたプロコフィエフにキーロフ劇場が「シンデレラ」の音楽を依頼します(1940年)。しかし戦争により制作が遅れ、完成したのは1944年です。

そして1945年に初めて上演されたのがボリショイ劇場のザハーロフ版です。ザハーロフ版でシンデレラを演じたガリーナ・ウラノーワを念頭に置いてプロコフィエフは作曲したともいわれています。

「シンデレラ」はプロコフィエフの中で最もロマンチック、かつ情感にあふれていると言れています。

ですが、「シンデレラ」は冒頭から重々しく始まります。

こうしたこともあり、バレエ版「シンデレラ」を思ったよりも暗いと感じる人が多いと思います。その分、シンデレラと王子様のシーンの音楽の美しさは際立っています。

プロコフィエフは作曲時、チャイコフスキーとマリウス・プティパのバレエ作品を参考にしたようです。この2人は「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「眠れる森の美女」という3大バレエを残しました。

「バレエ・ダクシオン」

物語に重点を置きすぎると、ダンサーのテクニックを観る機会がなくなってしまいます。プティパは純粋にダンスを楽しむシーンを効果的にストーリーの中に挿入していきます。

バレエ・ダクシオン

バレエを演劇的な筋で構成する方法で、見せ場がわかるようになっている。踊りそのものの美しさを追求する過程で生まれた。

とくに古典作品では「ディベルティスマン(ストーリーと関係ない踊り)」「グラン・パ・ド・ドゥ」「キャラクター・ダンス(民族舞踊)」「コール・ド・バレエ(大勢の踊り)でのバレエ・ブラン(幻想的な群舞)」の場面が挿入されています。

グラン・パ・ド・ドゥ

男女の踊り:ゆるやかな曲で女性が男性にサポートされ優雅なラインを魅せる「アダージョ」
⇒男性の踊り:高いジャンプ、回転技が光る「男性のヴァリエーション」
⇒女性の踊り:細かい足さばき、軽やかでしなやかな「女性のヴァリエーション」
⇒男女の踊り:男性が舞台をジャンプで一周するマネージュ、女性の32回転のフェッテといった「コーダ」

「シンデレラ」は古典バレエの様式をとっているので、とても見やすい構成になっています。ダンスの見せ場である、パ・ド・ドゥ(主役2人の踊り)、ヴァリエーション(ソロの踊り)が物語に上手く溶け込んでいます。

プロコフィエフが作曲した「ロミオとジュリエット」ではそこまで意識されていませんでした。

またシーンや登場人物の説明描写として、それぞれにテーマ音楽が割り当てられています。そのため、メロディーを聞くと誰が登場するかわかるようになっています。

映像があまり残っていません

アシュトン版「シンデレラ」の映像は多く発売されているわけではありません。

さきほどシンデレラの登場シーンで紹介したアントワネット・シブレーとアンソニー・ダウエルによる名演。1969年の映像です。振付のフレデリック・アシュトンが義理のお姉さん役で登場している貴重な映像です。

2,700円ほど。今みても素晴らしい映像です。

日本では新国立劇場バレエ団が、隔年で「くるみ割り人形」とアシュトン版「シンデレラ」を上演し続けています。そのため直接見るチャンスもたくさんあります。ぜひ一度舞台に足を運んでみてください。

kazu

以上、初心者のためのアシュトン版バレエ「シンデレラ」でした。
ありがとうございました。

バレエ作品に関してはこちらにまとめていますので、ぜひご覧ください。