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「ジュエルズ」は初心者でも楽しめる?
ストーリーがない抽象バレエって?
見どころは?

英語で「バランシン(balanchine)」と検索すると予測キーワードのトップに出てくるのがこの「ジュエルズ(jewels)」です。世界中のバレエ団が「ジュエルズ」を上演していて、ガラ公演(いろいろな作品のグラン・パ・ド・ドゥを何個も踊る公演)でもトップダンサーたちがよく踊ります。

「ジュエルズ」は物語のないバレエです。純粋に踊りを楽しむバレエのため、僕も最初どうやって楽しめばいいかわかりませんでした。

ですが、「ジュエルズ」はテーマがハッキリしています。エメラルドはパリ(フォーレ作曲)、ルビーはニューヨーク(ストラヴィンスキー作曲)、ダイアモンドはサンクトペテルブルク(チャイコフスキー作曲)です。

これが「ジュエルズ」を楽しむためのヒントになります!

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。30分のショーから2時間の舞台まで出演回数は5,000回は軽く超えているんじゃないかと思います。レッスンを受けるのが大好きで、ひたすら踊りまくっていました。今もレッスンは継続中でフリーのダンサーとして活動中です。

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kazu

今回は「ジュエルズ」の作品内容の解説です。

※5分ほどで読み終わる記事です。この記事はバレエ鑑賞初心者の方のために書いています。初めて「ジュエルズ」を観る人のために、映像で予習できるようになっています。

ジョージ・バランシン振付バレエ「ジュエルズ」完全解説

バランシンと宝石の出会い

1939年、ジョージ・バランシンはクロード・アーペルと出会います。このアーペルとは、日本ではヴァン・クリーフとして知られる高級ブランド「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」のアーペルです。

kazu

バランシンがショーウィンドウの前をウロウロしていたところ、声をかけられたのがきっかけだったそう。笑

その後、クロード・アーペルは、マンハッタンの五番街にある自身のブティックにバランシンを招待します。バランシンは、アーペルがもつ宝石への情熱にインスピレーションを得ます。これがバランシンの「ジュエルズ」を生むきっかけとなりました。

宝石を擬人化したような作品は、多くの作品に影響を与えています。

制作

全3幕
上演時間:81分
出演者数:66名

振付:ジョージ・バランシン
作曲:
エメラルド:ガブリエル・フォーレ(ペレアスとメリザンド、及びシャイロックからの抜粋)
ルビー:イーゴリ・ストラヴィンスキー(ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ)
ダイヤモンド:チャイコフスキー(交響曲第3番ポーランド、第2楽章から第5楽章)
衣装:カリンスカ

初演:1967年、ニューヨーク州立劇場(現ディヴィッド・H・コーク劇場)

ニューヨーク・シティ・バレエ団に関してはこちらをどうぞ。

ダンサー

ジュエルズを踊るためにはダンサーが気をつけることがあります。「ダンサーが宝石を表現するのではなく、ダンサー自身がキラキラした宝石であるように魅せる」というのがバランシンからの要求です。

ジュエルズは3つのパートがありますが、この3つともをレパートリーに持つダンサーは多くありません。特に女性ダンサーは、それぞれの個性にあったひとつの役をレパートリーに持っています。

ダイアモンドはカンパニーを代表するダンサーが踊るため、この役を与えられているダンサーはカンパニーを代表するダンサーだと一瞬でわかります!

作品解説

ニューヨーク・シティ・バレエ団のダンサーによる解説です。

エメラルドを踊るタイラー・ペック(P)、ルビーを踊るテレサ・ライクレン(R)、ダイアモンドを踊るサラ・マーンズ(M)のインタビューを意訳しています。

P:「ジュエルズ」といわれてまず思い浮かべるのが「自由」「興奮」…
R:「ジャズ」「法則に従わない」…
M:「ロマンティック」「情熱」…

M:ジュエルズは「エメラルド」「ルビー」「ダイアモンド」の3つのパートから構成されています。
P:バランシンはバレリーナが音楽を振付で表現できるよう具体的にエメラルド、ルビー、ダイアモンドをテーマに決めました。
R:驚くことに物語がないのにも関わらず、この作品だけでバレエの歴史をみることができます。

エメラルド

P:エメラスドは3つのパートの中でも、1番ロマンティックなパートです。音楽と衣装はまるでドガの絵画のように感じます。

ソロのパートで難しいのは、上半身は自由に動き、下半身はしっかりコントロールされていなければいけないことです。ステップは音楽とシンクロし、手の動きには遊び心があり、次の方向へ行く時の頭の使い方も独特で、発見の連続です。エメラルドはとても微妙で繊細な動きが大事で、大げさな動きは必要ありません。ひとつひとつのステップを正確に動くことで印象に残ります。

ルビー

R:幕が上がりルビーが始まると観客の皆さんはハッとすると思います。エメラルドとの違いがはっきりわかり、鋭く、エッジの効いたパートが始まると予感できるからです。

バランシン作品では背が高く、個性のある女性のソロダンサーがよく登場します。どんな場所でもひと目をひく人気のある女性がいて、私はときどき意地悪なイケてる女性を大げさに演じることがあります。この性格は本来の私とは違うからこそ、ルビーを踊る一夜はふだんの自分とは違う自分でいることができ、とても楽しい経験です。

最初の踊りのパートが終わるころ、音楽がゆっくりになり舞台から下がります。舞台から下がる直前に、片足で足を持ち上げるバランスがあります。できるだけ足をあげるために、体幹、体力、バランスを駆使して挑戦します。

ダイアモンド

M:ダイアモンドは澄んだ空気の中にいるようで、一点の汚れもないような空気感があります。とても壮大で、品の良さがあります。静かな雰囲気の中にも情熱的な部分、ドラマティックな愛が入っています。

主役のカップルが登場するシーンでは、ただパートナーに向かって歩くステップがあります。考えうる限り、舞台上のステップの中で一番シンプルです。だからこそ一番魅せるのが難しいステップで、神経をとても使います。

そして、男性から逃げるようなステップがあります。まるで猫とねずみの追っかけっこのようです。最後には女性が男性を抱きしめます。そこに張り詰めた空気はなく、音楽につつまれ、ふたりでひとつという空気になります。

R:そして素晴らしいクライマックスがやってきます。舞台上の全員がうしろに下がると、音楽がゆっくりになり、全員で一緒のステップを踏みます。このシーンをみると毎回鳥肌がたってしまいます。

P:ジュエルズが特別なのは、観客のみなさんが衣装、音楽、バランシンの振付の美しさの虜になってしまうからです。

M:毎回ダイアモンドを踊るたび、どんなダンサーになりたいかという情熱が湧き上がってくるのを感じることができます。

kazu

映像を自分なりの解釈で翻訳しました。ここからはそれぞれのパートを詳しく見ていきます。

エメラルド:パリ(フォーレ作曲)

19世紀のフランスが持っていたロマンティックでエレガンスな空気を漂わせるパートです。衣装はロマンティックチュチュ。

作曲のフォーレは、ボレロで有名なラヴェルの師としても有名です。フォーレはロマン派と印象派をつなぐ活動をしていたと言われています。

ダンサー

メインダンサー:女性1名、男性1名
リードダンサー:女性3名、男性2名
群舞:女性10名

フランスの持つロマンティック・バレエにあらわされる叙情性のある踊りです。

フォーレの曲をつなぎ合わせて演奏されるのですが、一番最後に「ペレアスとメリザンド」から「メリザンドの死」という曲が使われます。フランスのロマンティック・バレエの代表である妖精物語に「ラ・シルフィード」という作品があります。この作品でも妖精が最後死を持って舞台が終わります。エメラルドの終わり方もこの流れに沿っているように思います。

ルビー、ダイアモンドに比べると盛り上がるのがなかなか難しいように感じるので、どう盛り上げるのかがダンサーの腕の見せどころです。

31分ほどです。


ルビーとダイアモンドも入っていますが、わかりやすい動画なので紹介します。

ルビー:ニューヨーク(ストラヴィンスキー作曲)

ルビーは鋭く活発なイメージのパートです。スカートの部分がチャールストンドレスのような衣装になっています。

ストラヴィンスキーの音楽はさまざまな時代の作品から影響を受けています。このいろいろなものを取り入れる姿勢がニューヨークという舞台にぴったりとなっています。

出演ダンサー

リードカップル:女性1名、男性1名
リードダンサー:女性1名
群舞:女性8名、男性4名

ストラヴィンスキーの独特の不協和音。そしてクラシックバレエにはない斬新で現代的な振付です。幕が上がった瞬間から、鮮烈な真っ赤が目に入ります。腕の回しや、足首を伸ばさないフレックスを多用し、エネルギッシュかつスピード感のあるパートです。

3つのパートのうち一番短く19分ほどです。

ダイアモンド:サンクトペテルブルク(チャイコフスキー作曲)

ダイアモンドは秩序や、帝政ロシアの壮大さを感じる作品です。バランシンがトレーニングを受けたマリインスキー劇場に影響を受けています。衣装は、クラシックバレエ王道のクラシックチュチュ。

表現力豊かなチャイコフスキーの音楽がオーケストラによって奏でられます。

出演ダンサー

メインカップル:女性1名、男性1名
リードダンサー:女性4名、男性4名
群舞:女性12名、男性12名

出演人数が他の2パートに比べ倍近いため、舞台にダンサーがかなりたくさんいるように感じます。視覚からも立体的な広がりや、壮大さを感じることができます。

19世紀後半にロシアで確立されたクラシックバレエの様式をそのまま取り入れています。

ガラ公演ではこのダイアモンド「第三楽章アンダンテ」のパ・ド・ドゥが踊られることが多いです。僕は「第四楽章スケルツォ」の音楽が大好きで、ダンサーが次々入れ替わり舞台上で踊ります。とてもワクワクします。そして、この第四楽章からの「第五楽章フィナーレ」の流れが好きなので、やはりダイアモンドは30分観るのがオススメです。

ダンサーの表情に特徴があり、皆ニコニコしています。こういう様式美を表すバレエでは仏頂面で踊っているダンサーも多いですが、ダイアモンドではダンサーの表情が晴れやかです。いいな、と思います。

最後のフィナーレは生で見ると鳥肌がたちます。ただ…。ダイアモンドは一番最後にやってくるので、少し眠くなりがち…。気をつけてください。

31分ほどです。

ジュエルズ50周年記念公演

2017年、ジュエルズの初演から50周年の公演では、スーパー・ハイパー豪華なバレエ団の共演がありました。

1幕「パリ」をパリ・オペラ座バレエ団、2幕「ニューヨーク」をニューヨーク・シティ・バレエ団、3幕「サンクトペテルブルク」をボリショイ・バレエ団が踊りました。ジュエルズはバレエの歴史をみることができますが、さらにそれぞれの地でトップのバレエ団が集まりました。

奇跡のように豪華な舞台です。

2020年デジタル・スプリング・シーズンで配信中

現在、新型コロナウイルスの影響で2020年スプリングシーズンの公演が全部キャンセルしてしまいました。

youtube、facebook、ホームページから作品を期間限定で公演をみることができます。

5/19~5/21までは「ジュエルズ」のダイアモンドが公開されます。

日本では5/20朝9:00~です。

無料でバランシンの作品が見られるチャンスです。特に、ニューヨーク・シティ・バレエ団が踊るバランシンは、ほかのバレエ団とは大きく違います。ぜひご覧になってみてください。

現在は見れなくなってしまいました…。

最初の解説では、副芸術監督のウェンディ・ウィーランが話しています。1967年の初演のダンサーはスザンヌ・ファレルで、今ニューヨーク・シティ・バレエ団に指導者として戻ってきています。今回のダイアモンドでもサラ・マーンズとラッセル・ジャンセンに指導を行ったとのことです。

フルバージョンでオススメはこちら

パリ・オペラ座バレエ団、2005年の作品です。僕が大好きだった時代で、キャスティングがとても豪華です。

衣装はクリスチャン・ラクロワが担当。カリンスカの衣装からデザインが変更されました。しかし、上演後バランシン在団が勝手に変更を加えたことにご立腹、という噂がでた「いわくつき」のバレエです!

マリ=アニエス・ジロ、オレリー・デュポン、アニエス・ルテステュの強烈な存在感。とくにマリ=アニエス・ジロは背が高く、まわりの男性よりも頭一つ高いです。姉御感とルビーの強烈な女性像がピッタリです。

のちにエトワールになる、イザベル・シアラヴォラ、ミリアム・ウルド=ブラーム、マティアス・エイマン、ジョシュア・オファルト、サンフランシスコ・バレエ団のプリンシパルのマチルド・フルステーがいたり、とても濃い舞台です。

kazu

ぼくの大好きなニューヨーク・シティ・バレエ団の代表作である「ジュエルズ」の紹介でした。
ありがとうございました。