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「ケインとアベル」のあらすじは?
アベルの人生は?
印象に残った部分は?

上下巻合計で1,000ページに迫るような作品で、1981年に翻訳出版されました。たしかに長いんですが、内容がスリリングで、文章自体とても読みやすいです。今発売されているバージョンは改訂が加えられているので、さらに読みやすくなっています。

重くずっしりした本を読みたい、という方はぜひ挑戦してほしいです。

下巻のネタバレはしませんが上巻のネタバレはしているので注意してください。

記事を書いているのは…

元劇団四季、テーマパークダンサー。年間100公演ほど舞台を観に行ったことのある劇場フリーク。小説は映画化されているものを読むことが多く、映画との違いを楽しんでいます。

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kazu

この記事は「ケインとアベル」のあらすじとアベルに関して紹介します。

※3分ほどで読み終わる記事です。この記事を読むと、きっと「ケインとアベル」が読みたくなると思います。(基本的にポジティブなことしか書きません。)

不条理でも不幸せではない

全体の感想はこちらで紹介しています。

たまたま同じ日に生まれたヴワデグ・コスキエヴィッチ(アベル・ロスノフスキ)とウィリアム・ケインが主人公の作品です。

ふたりの主人公の人生が同じ時系列で交互に語られていくスタイルです。

実際の史実が話にからんでくるので、すごくリアルに感じます。全世界の人々が影響を受けた第1次世界大戦、世界恐慌、第2次世界大戦がこの物語では大きなターニングポイントになっています。

上巻では、1906年4月16日に生まれた2人が、青年期に出会うまで(電話で話すのみ)スリリングに描かれます。上巻最後の場面でふたりは対立し、再建をかけたホテルの支配人と融資を断った銀行家という立場で終わります。

下巻になると30代からふたりの人生の終盤までが描かれていきます。アメリカやヨーロッパを舞台にふたりは活躍し、政治の話も入ってきます。そして、ふたりの子供の世代まで登場します。

このふたりは「別の形で会ったら親友だったかもしれない」のですが、ずっと対立をしていきます。

ふたりは果てしなく傷つけ合うのですが、だからといってお互いを理解していないわけではなく、むしろお互いを理解しています。頑固なふたりが歩んだ人生は、幸せと不幸せの繰り返しです。安定した人生ではなかったかもしれないけど、充実していたんだと思います。

kazu

ここからはアベルの人生についてです。お時間ありましたらお付き合いください。ちょっと長いです。

ヴワデグ・コスキエヴィッチからみた「ケインとアベル」

登場人物

ヴワデグ・コスキエヴィッチ:主人公、東ポーランド出身
フロレンティナ:ヴワデグの姉で仲がいい
ロスノフスキ男爵:ヴワデグの住む地域の領主
レオン:ロスノフスキ男爵の息子
家庭教師たち:レオンの先生

ヴワデグは東ポーランドで猟師の子供にひろわれ、貧乏な猟師の家で育てられています。小さな小屋に大人数で住むコスキエヴィッチ家。本来なら血のつながっていない子供を育てる余裕はないのですが、母と一番上の姉フロレンティナがヴワデグを気に入ります。ヴワデグは生まれながら乳首がひとつしかなく、母はこれを神の印と運命的なものを感じます。

この地域はロスノフスキ男爵の城を中心に村人が生活をしています。ヴワデグはコスキエヴィッチ家のほかの子供と違い、勉学に秀でていました。このウワサを聞きつけたロスノフスキ男爵。男爵にはひとり息子のレオンがいるものの、競争相手がおらずレオンの成長を心配します。そこでヴワデグに学友になってもらおう、という話が持ち上がります。

この時ヴワデグのしたたかな面が現れます。ヴワデグは大事なお姉さんフロレンティナをどうにかお城に連れていきたいと考えます。そして持ち前の頭の回転の速さを使い、男爵にサラリと交渉し見事成功します。

ヴワデグはレオンの学友なのでお客様あつかいです。親友となったレオンと一緒に贅沢な暮らしを堪能するヴワデグ。フロレンティナは下働きなので立場は違いますが、一緒に楽しく暮らしていました。ヴワデグは、もはやコスキエヴィッチ家になんの未練もなくなってしまいます。

第1次世界大戦

しかし、第1次世界対戦でドイツ軍が侵攻してきます。この時、レオンがヴワデグを助けるために亡くなってしまいます。死んでしまったレオンが幸せなんじゃないか、と錯覚するくらいヴワデグはここから凄まじい経験をしていきます。

城が占領され、ヴワデグや城で働いている人たちは捕まり地下牢での4年間の幽閉生活が始まります。ロスノフスキ男爵は精神的に参ってしまっていたため、ヴワデグが「どんな状況でも生きるチカラ」と「リーダーシップ」を発揮し、地下生活の精神的な柱になります。

4年間の幽閉生活では自由がなく、食べ物も満足に得られず、地下牢の住人たちがだんだんと少なくなっていきます。そして、ロスノフスキ男爵にもその時が訪れます。

最後にヴワデグを呼び、自分の服をめくります。ロスノフスキ男爵には乳首がひとつしかありません。このときヴワデグはロスノフスキ男爵の私生児であったことが判明します。

ロスノフスキ男爵はヴワデグを自分の息子と確信していました。ふたりの家庭教師を呼び、「ロスノフスキ家のすべてをヴワデグに譲る」という遺言の証人になってもらいます。そして、美しい銀の腕輪をヴワデグに渡し、息を引き取ります…。

ソ連軍の侵攻

城の外で銃撃戦がはじまります。ポーランド軍が来てくれたかと思ったものの、ドイツ軍と入れ替わるようにソ連軍が侵攻してきます。ソ連軍はドイツ軍よりも残忍でした。ヴワデグたちは、極東ソ連まで連れて行かれ強制労働させらる運命にあります。この時、若い女性たちがソ連軍の餌食になってしまいます。このシーンは読み進めるのがツラいです。

ヴワデグが姉として慕い、初恋のような感情を持っていたフロレンティナがソ連軍の兵士たちに強姦されそのまま息絶えてしまいます。

失意の中のヴワデグたち。東ポーランドから連れ出され、逃げ出すチャンスもなくシベリアまで連れて行かれます。列車に乗って移動している時、ヴワデグはほかの労働者にナイフで襲われてしまいます。太ももを刺され、まともな医療が受けられず、一生片足を引きずる後遺症が残ってしまいます。

そして、シベリアに到着してしまいます。

この時ヴワデグは、たったの12歳でした

シベリアから脱出

この脱出劇がとにかくワクワクします。「きっと脱出できるんだろうな」と思いながら読んでいてもハラハラするシーンの連続で、スピード感があります。

このシーンには心の美しい人々が登場します。どんなに悲惨な状況であっても救いがあり泣けます。悲惨な状況だからこそ、当たり前の優しさがズシリと身にしみます。

ヴワデグを助けてくれる人々

フランス人医師:ヴワデグの逃走の計画を立てる
ロシア人の女性:モスクワでヴワデグを助ける
ロシア人の少年:ヴワデグのスリ仲間で心を許せる存在
イギリス大使館の高官:ヴワデグを窮地から救う
ポーランド領事:ヴワデグにアメリカ行きを決意させる

最悪の状況まで転がり続けたヴワデグの人生に、ひとりのフランス人医師の登場で光が見えてきます。フランス人医師は脱出するには年をとりすぎていると、ヴワデグにすべてを託します。そこには策略や裏はなく、完全なる善意でヴワデグを助けます。その証拠にヴワデグは男爵からもらった銀の腕輪を差し出しますが「いつかヴワデグの役に立つ」と優しく断ります。

シベリアからモスクワ行きの列車に忍び込めたヴワデグ。しかし、列車の中では身分証明書のチェックが行われています。ここではロシア人の女性がヴワデグを「自分の息子である」と嘘をついてくれます。それだけでなく、モスクワではヴワデグに食事、服を与えてくれました。

久しぶりの入浴。久しぶりのベッド。もはや枕では寝られなくなっているヴワデグ。このロシア人女性はヴワデグを息子として育てたい、とさえ言ってくれました。このシーンは心が温まります。ですが、彼女の旦那さんがヴワデグを追い出してしまいます。

そしてロシアの最西端までたどり着きます。ここではロシア人の少年と出会い、生きるために一緒にスリを行います。ふたりの息はぴったりで、しばらくの間一緒に生活を送ります。ですが、ヴワデグの目的地はトルコです。少年に引き止められても決意は変わりません。

少年がヴワデグを手伝い、うまく船に乗り込みトルコまで向かいます。ただ船の倉庫に忍び込んだものの、そこにはネズミがいます。真っ暗になるとネズミがヴワデグを食べようと襲います。「ヴワデグはやっと休める!」と思ったのに、まだまだ安心できません。

そうして、やっとの思いでトルコまで到着します。

トルコについたときフランス人医師からもらっていたお金を使おうとしますが、紙切れ同然でした。そのため、ロシアで身につけたスリの技術でオレンジを盗んでしまいます。この盗みがバレてしまいヴワデグはつかまります。イスラムの厳格な掟により手を切り落とされそうになるヴワデグ。

ちょうどそこにイギリス大使館の高官がいました。たまたまヴワデグの銀の腕輪が目に入り、ヴワデグのことを助けてくれました。この高官がイギリス大使館まで連れていってくれて、食事や洋服、寝る場所を提供してくれます。食事をスコットランド人の女性が作ってくれるのですが、食事のシーンでじーんとしてしまいます。

そして、ポーランド領事館まで連れて行ってもらい、ついに脱出が成功します。

この時出会った人々とヴワデグとのやりとりが、ズッシリと響きます。食事がこんなにもおいしいのか、ベッドがこんなにもありがたいものなのか…。日常がとても美しく感じる描写です。

ヴワデグの持つ人間としての魅力が彼らを引き寄せたように思います。

アベルと名前を変えニューヨークへ

同郷の友人

イェジー・ノヴァク:ポーランド出身で親友となる(アメリカ名はジョージ)
ザフィア:ポーランド出身の可愛い女の子

しばらくポーランド領事館で働いたヴワデグ。本当はポーランドに戻りたかったものの、もはや戻るのは不可能と悟ります。幸せだった生活、故郷を捨てなければいけない境遇。

そしてアメリカで人生をやり直すことを決意します。

ニューヨーク行きの船で同郷のポーランド人たちと友達になるヴワデグ。イェジーはヴワデグが今まで縁遠かった、色恋について詳しく、いろいろ人生に必要なことを教えてくれました。イェジーはアメリカではジョージという新しい名前で生きていく決心をしています。

そして、美しいザフィアと出会います。初めての恋をここで経験します。

入国する際、名前を入国審査で聞かれます。ヴワデグはいつまでも答えることができません。そのとき係官が銀の腕輪を見つけます。そこには「アベル・ロスノフスキ」という文字が。こうしてヴワデグはロスノフスキ男爵の名前をもらい、アベルとして新たな生活を始める決意をします。

kazu

ヴワデグの逃走劇は生まれたときから始まっていたように思います。ヴワデグの人生に関わった人が、ひとりでも欠けていたらニューヨークまで到着することはなかったんだと思います。

プラザホテルでケインとすれ違う

成り上がるきっかけを与える人物

デーヴィス・リロイ:リッチモンド・ホテル・グループの総支配人

ニューヨークではジョージの知り合いのもとで働いていましたが、アベルは要領の良さを発揮しプラザホテルの職を手にします。働きながら学校に通い能力をどんどん高めていきます。

このとき株の取引もはじめます。アベルはプラザホテルのウエイターとして働いています。プラザホテルのレストランには要人たちがやってきて、会社の情報をやりとりしています。その点に気づいたアベルはこの情報を使い、株でどんどん儲けていきます。

アベルはウエイターとしてとても優秀でこの働きを見つめる人物がいました。リッチモンドホテル・グループのオーナーであるデーヴィス・リロイです。

リロイはアベルをシカゴのホテルの副支配人としてヘッドハンティングします。

そんな中、ふたりの若者とその家族がプラザホテルで楽しく食事をしています。寄宿学校を卒業したウィリアム・ケインがお祝いをしていました。そこに給仕するアベル。

ケインがふとウエイターの手元をみると、銀の腕輪が光ります。その腕輪が鮮明に印象に残ります。

お互いに「この人物はどんな人なんだろう…」という印象を与えます。

これがふたりの初めての出逢いです。

kazu

今回は「カインとアベル」上巻3/4くらいのアベルの紹介でした。血生臭い前半部分が終わりです。ここからはケインとの対立が起こり、ホテルの再建、政治の世界のスキャンダルにまで話がいきます。とにかくおもしろいので、ぜひ読んでほしいです。
ありがとうございました。